弘前大学被ばく医療総合研究所では、公益財団法人JKAによる「2024年度機械振興補助事業」の支援を受け、床次眞司教授を研究代表者として、「標的アイソトープ治療に用いる人工アルファ線放出核種の高感度迅速検知システムの開発」に取り組みました。
本研究の概要及び成果の詳細は、下記のとおりです。
2024年度 機械振興補助事業 研究補助
補助事業名:2024年度 標的アイソトープ治療に用いる人工アルファ線放出核種の高感度迅速 検知システムの開発 補助事業
研究代表者:弘前大学被ばく医療総合研究所 床次 眞司
1.研究の目的と背景
放射線治療の1つとして、放射性同位元素を組み込んだ薬剤を体内に投与し、がんなどの悪性腫瘍を治療する標的アイソトープ治療が注目されている。特に、アルファ線を放出する放射性同位元素211Atは細胞の殺傷能力が高く、高い治療効果が期待されている。他方で、放射性同位元素の製造や使用において作業者の放射線被ばくを伴い、施設内の汚染や施設外への漏洩も生じうる。したがって、放射性同位元素を厳重に管理するため、放射性核種を高感度で迅速に検出する測定機器の開発が必要となる。本補助事業では、アルファ線放出核種を検出する測定機器を開発する。
2.研究内容
(1)検出方法の検討
①ガス成分の検出方法の検討
環境中で人工アルファ線放出核種を検出する場合、天然に存在するアルファ線放出核 種のラドンとトロンを識別する必要がある。この識別にアルファ線スぺクトロメトリ(アルファ線のエネルギーを識別してその本数を測定する技術)が優位であると考え、シリコン半導体検出器による測定を検討した。また、211Atがポロニウム211(211Po)を生成することに着目し、測定機器内に静電場を発生させること(静電捕集法という)により211Poをシリコン半導体検出器内に捕集し、測定する方法を検討した(図1)。弘前大学が有するラドンばく露場とトロン曝露場を用いて211Poと同様のポロニウム類(212, 214, 216, 218Po)を生成し、静電捕集法とシリコン半導体検出器によりアルファ線スペクトルを測定した結果、211Poのアルファ線エネルギーに相当する領域ではラドンとトロンから生成される天然由来のポロニウムを十分に弁別することができるエネルギー分解能を有することを明らかにした(図2)。また、測定機器内の半導体検出器の位置を変え、検出感度の向上を試みた。その結果、検出感度は半導体検出器の設置位置に依存し、機器内の有効体積が大きくなるように半導体検出器を位置したときに検出感度が大きくなった。これらの結果を基に静電捕集型モニタを試作した(図3)。
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図1 静電捕集法の概念図 |
図2 アルファ線エネルギースペクトルの測定例。212, 214, 216, 218Poは実測値、211Poは想定されるピークの位置を表す。 |
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図3 試作した静電捕集型アルファ線放出核種測定機器 |
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②粒子状成分の検出方法の検討
アルファ線放出核種の粒子状成分をフィルタ上に捕集し、シリコン半導体検出器を用いてアルファ線スペクトルを測定する方法を検討した。アルファ線スペクトル分析で妨害となるラドンとトロンの寄与を精度よく補正するためには、アルファ線放出核種の粒子状成分がフィルタの表面で捕集され、アルファ線エネルギーの損失が小さいスペクトルを得る必要がある。この項目ではフィルタの表面捕集効率を評価する方法を開発し、表面捕集効率が高いフィルタを選定した。表面捕集効率の評価方法の開発では、これまでに提案されたアルファ線スペクトル分析による3種類の評価方法について、実測データとモンテカルロシミュレーションに基づき妥当性を評価し、アルファ線スペクトルの形状を正規分布で模擬して解析する方法が最も妥当であることを明らかにした。この方法に基づき市販されているフィルタの表面捕集効率を網羅的に調べ、放射線モニタリングで通常用いられている繊維性フィルタは表面捕集効率が低くアルファ線放出核種の測定には適さず、メンブレンフィルタが適すること、メンブレンフィルタの中でも特定のフィルタで表面捕集効率が高いことを明らかにした(図4)。
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図4 3種類のフィルタで捕集したアルファ放出核種のアルファ線スペクトルの測定例。繊維性フィルタはピークの低エネルギー側の裾野が広く、表面捕集効率が低い。 |
(2)アルファ線放出核種に関する粒子状・ガス成分統合検出システムの開発
静電捕集型アルファ線放出核種測定機器、および2020年度補助事業により開発された技術を用いた粒子状成分検出システムを統合し、アルファ線放出核種の粒子状・ガス成分統合検出システムを試作した。この統合検出システムを弘前大学のラドンばく露場を用いてラドンの空気にばく露し、検出性能を評価した。その結果、測定システムが指示したラドン濃度およびラドン子孫核種濃度は、基準となる測定機器で測定したラドン濃度およびラドン子孫核種濃度と不確かさの範囲で一致し、統合検出システムの妥当性を示した(図5)。また、粒子状・ガス成分統合検出システムを211Atの雰囲気内にばく露し、検出性能を評価した。その結果、粒子状成分検出部において211Atおよび211Atに由来する211Poのアルファ線エネルギーピークを認めた。一方、ガス成分検出部において211Atおよび211Poのアルファ線エネルギーピークは認められなかった。これは、静電場により211Atや211Atに由来する211Poを捕集できなかった可能性、または物理学的性状(粒子状やガス状)が明らかにされていない211Atが粒子状を呈する可能性を示唆する。ガス成分の検出方法を再検討するなどして、これら二つの可能性について研究する必要がある。
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図5 ラドンの粒子状成分(a)とガス成分(b)に関する測定機器の比較測定の結果 |
3.本研究成果の将来展望
粒子状の211Atに対する測定機器の原型を開発した。市場の仕様要求を踏まえて測定機器を改良、製品化することにより、211Atの製造や使用における作業者および環境の放射線安全が確保され、211Atを用いた標的アイソトープ治療の普及と、ひいては近い将来のがん克服に貢献する。
本事業で開発したアルファ線放出核種に関する粒子状・ガス成分統合検出システムは、競輪の補助を受けて実施した。
4.事業内容についての問い合わせ先
所属機関名:弘前大学被ばく医療総合研究所
住 所:〒036-8564 青森県弘前市本町66-1
担 当 者:教授・床次 眞司
担当部署:計測技術・物理線量評価部門
E-mail:tokonami@hirosaki-u.ac.jp
URL:http://www.irem.hirosaki-u.ac.jp/







