放射線生物学部門・有吉健太郎助教らの研究チームは、放射線を照射したマウスの造血幹細胞において生じるゲノムの不安定化に年齢依存性が存在することをRadiation Research誌に発表しました。
放射線を被ばくした細胞では、細胞死や染色体異常が生じますが、これまでの研究により、放射線を被ばくした細胞が分裂して生まれた子孫の細胞においても、細胞死や染色体異常等が生じてくることが報告されていました。このことから、放射線を被ばくした細胞は子孫細胞にまで被ばくの記憶が伝播しており、ゲノムの不安定化が生じます。これを「放射線誘発遺伝的不安定性」と呼びます。
今回、生後1週齢の仔マウスと14週齢の大人のマウスに4Gyの放射線を照射し、造血幹細胞におけるゲノムの不安定化を比較したところ、大人マウスでは放射線被ばくによりゲノムの不安定化が誘導されたのに対し、仔マウスではゲノムの不安定化が誘導されず、抑制されることが判明しました。このような傾向は被ばく後60日経過した際にも見られ、大人マウスでは長期に渡って放射線の影響が継続していると考えられます。また、ゲノムの不安定化が惹起された大人マウスにのみ細胞内の酸化ストレスの上昇、炎症マーカーの上昇等がみられたことから、放射線により誘発される炎症反応に年齢依存性が存在し、ゲノム不安定性出現に影響していることが考えられます。これらの結果は、被ばく時年齢によって大きく異なる発がんリスクを考える上で重要な知見であると思われます。
【掲載論文】
Ariyoshi K., Miura T., Kasai K., Nakata A.,Fujishima Y., Shinagawa M., Kadono K., Nishimura. M., Kakinuma. S., Yoshida MA. (2018) Age Dependence of Radiation-Induced Genomic Instability in Mouse Hematopoietic Stem Cells.
Radiation Research, http://www.rrjournal.org/doi/10.1667/RR15113.1