放射線物理学部門の床次眞司教授のグループは、2011年4月に浪江町内に滞在していた住民や南相馬市からの避難住民に対する甲状腺被ばくモニタリングを実施しました(Tokonami et al. Sci Rep. 2012)。この経験を生かして本グループは原子力災害時の甲状腺被ばくモニタリング手法の標準化と可搬型の装置開発を目指した研究を行っています。
今回の研究では、国内企業の協力を得て、市販されている5種類のγ線スペクトロメータとORINS甲状腺ファントムを用いて①エネルギー分解能、②効率、③検出下限値の検討を行いました。3インチ×3インチNaI(Tl)、2インチ×2インチCeBr3、1.5インチ×1.5インチSrI2(Eu)、1インチ×1インチSrI2(Eu)および1cm2×0.1cmCdTe半導体のγ線スペクトロメータを対象としました。その結果、事故発生から数週間以内の早い時期にはSrI2(Eu)シンチレーションスペクトロメータを使って甲状腺被ばくモニタリングをすることで131Iだけでなく半減期がさらに短い132Iや133Iも定量できる可能性が示唆されました。一方、2インチのCeBr3のエネルギー分解能は5.9%とSrI2(Eu)よりは劣るものの、134Csの605 keVと137Csの662 keVのピークを分離して評価でき、相対効率(感度)は3インチのNaI(Tl)の約70%程度で比較的高い感度を有していることが分かりました。さらに、事故後数週間以上経過した時期ではCeBr3シンチレーションスぺトロメータを使用することで、体内中の131Iや134Csのみでなく、137Csの放射能も評価できる可能性が示唆されました。甲状腺中の放射能評価において、避難先の空間線量率が1 μGy/h程度であった場合、2インチのCeBr3と1.5インチのSrI2(Eu)を用いれば100 Bqから200 Bq程度までは検出可能であると評価されました。
掲載論文
Masahiro Hosoda, Kazuki Iwaoka, Shinji Tokonami, Yuki Tamakuma, Yoshitaka Shiroma, Takahiro Fukuhara, Yusuke Imajyo, Jun Taniguchi, Naofumi Akata, Minoru Osanai, Takakiyo Tsujiguchi, Masaru Yamaguchi, Ikuo Kashiwakura. Comparative study on performance using five different gamma-ray spectrometers for thyroid monitoring under nuclear emergency situations, Health Physics, 116(1): 81-87 (2019).